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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)66号 判決 1993年2月25日

愛知県小牧市小木東3丁目97番地

原告

富川化学工業株式会社

代表者代表取締役

岡本秀雄

訴訟代理人弁理士

岡田英彦

小玉秀男

山本江里子

長谷川哲哉

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

麻生渡

指定代理人

矢田千代子

磯野清夫

田辺秀三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和60年審判第6004号事件について平成4年1月23日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠について、昭和57年3月27日、登録出願をしたところ、昭和59年12月12日、拒絶査定を受けたので、同60年4月1日、審判を請求した。特許庁はこの請求を昭和60年審判第6004号事件として審理した結果、平成4年1月23日、上記請求は成り立たない、とする審決をした。

2  審決の理由の要点

(1)  本願意匠は、意匠に係る物品を「包装用容器」とし、その形態は別紙意匠目録(1)記載のとおりである。

引用意匠は、昭和55年10月22日、拒絶査定の確定した意匠に係るもので、その形態は同目録(2)記載のとおりである。

(2)  両意匠を対比すると、意匠に係る物品が一致し、形態において、細長円筒形状の略中央を細く絞り、絞り部の上から上方を上端の瓶口に向けて、徐々に細径とした瓶体であって、上端は略釣り鐘形状の頭部とし、少し細いごく短い首を介して略円錐台形状の肩部に連続し、その下端から略中央の絞り部へ向けて徐々に絞り、次に下方の胴部へ向けて傾斜面で徐々に太径とし、略円筒形状の胴部は下端寄りで裾すぼまりとなるものとし、瓶体の最も細径のところは中央の絞り部で釣り鐘形状頭部と略同径とし、肩部の下端は、瓶体の最も太い胴部より細くその部位は全体の上から約3分の1の部位とし、頭部を除く全体を透明とし、全体の高さに対する太さの割合は最も太径のところの約3倍の高さとした点で共通しているものと認められる。

これに対し、略円錐台形状の肩部の周側傾斜面について、本願意匠は、周側傾斜面の上端を凸弧面状としたのに対し、引用意匠は、その上端を凸弧面状としていない点(以下「差異点1」といい、他の差異点についても同様に表記する。)、絞り部から円筒形状の胴部にかけての傾斜面について、本願意匠は凸弧面状として胴部へなだらかに連続する面としているのに対し、引用意匠はなだらかな面としていない点(差異点2)、円筒形状胴部の裾すぼまりの下端寄りについて、本願意匠は引用意匠に比べてやや上方から裾すぼまり状としている点(差異点3)、釣り鐘形状の頭部について、本願意匠は頭部を嵌着して、不透明なものとしたのに対し、引用意匠は透明なものである点(差異点4)、にそれぞれ差異がある。

(3)  以上の共通点、差異点を総合して両意匠を全体として検討すると、差異点1は、この種意匠においてその肩に相当する部位の上端を凸弧面状にすることは、本願意匠出願前より普通に知られているところであり、本願意匠もその普通に知られている形態にしたまでのものであって、それほど評価することはできず、差異点2は、本願意匠も引用意匠も絞り部から徐々に太径にして胴部に至る傾斜面とした点で共通しており、差異点3については、本願意匠が頭部を嵌着した点は構造上の問題であり、意匠の類否に与える影響は小さく、不透明である点についても、全体の大部分が透明な瓶体の一部分が不透明なものであって、この点の差異が両意匠の類否に与える影響は小さいものといわざるを得ず、その他の差異についても僅かな差異であって、いずれも両意匠の共通する形態に埋没する程度の微弱なものにすぎない。そうして、これらの差異を総合しても両意匠を別異のものとする独自の意匠を構成したものと認める程の差異とは認められない。

そうすると、両意匠において、共通する形態は、両意匠の形態上の特徴を表出し、意匠の類否を左右するものといわざるをえない。

したがって、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態において、意匠の類否を左右するところが共通するものであるから、前記差異があるとしても、意匠全体としては、類似するものというほかない。

(4)  本願意匠は、意匠法9条1項に規定する最先の出願人に係る意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができない。

3  審決の取消事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)の本願意匠と引用意匠が共に、「細長円筒形状の略中央を細く絞り、この絞り部の上から上方を上端の瓶口に向けて細径とした瓶体である点、上端を略釣り鐘形状の頭部とし、この頭部下端から略円錐台形状の肩部に連続し、その下端から略中央の絞り部へ向けて絞り、絞り部から下方に向けて傾斜面を経て太径の略円筒形状の胴部としている点、瓶体の最も細径のところは中央の絞り部で、釣り鐘形状頭部と略同径としている点、肩部の下端は、瓶体の最も太い胴部より細く、その部位は全体の上から約3分の1の部位としている点、頭部を除く全体を透明としている点、全体の高さに対する太さの割合は最も太径のところの約3倍の高さとした点」において共通するとした点並びに差異点1ないし4は認めるが(但し、差異点を更に正確に表現すると後記(4)の相違点1ないし4のとおりである。)、その余は争う。同(3)は争う。同(4)のうち、意匠登録を受けることができないとする点は争い、その余は認める。

審決は、本願意匠に係る物品の認定を誤り、本願意匠と引用意匠との共通点を誤認して相違点を看過し、さらに差異点の評価を誤り、ひいては両意匠の類否の判断を誤ったものであるから、違法であり、取消しを免れない。

(1)  審決は両意匠に係る物品は一致するとするが、誤りである。すなわち、本願意匠は、願書及び願書に添付した図面によれば、「包装用容器」を意匠に係る物品とするものではあるが、その意匠の形態から明らかなように、特に「ラムネ瓶」を意匠に係る物品とするものであるのに対し、引用意匠は「包装用瓶」ではあるが、その具体的な物品において相違するものである。したがって、審決のこの点に関する判断は誤っている。

(2)  両意匠の類否についてみると、まず、本願意匠の構成は、「細長円筒形状の略中央を細く絞り、絞り部の上から上方を上端の瓶口に向けて、徐々に細径とした瓶体であって、上端はキャップ受部に対して不透明なキャップ部をねじ着した略釣り鐘形状の頭部とし、少し細い直立した首を介して略円錐台形状の上端をなだらかに傾斜する凸弧面状となした肩部に連続しその下端から略中央の絞り部へ向けてなだらかな傾斜で絞り、次に下方の胴部へ向けて凸弧面状となしたなだらかな傾斜面で徐々に太径とし、略円筒形状の胴部は瓶の高さの下端寄り約10分の1より裾すぼまりとなるものとし、瓶体の最も細径のところは中央の絞り部で釣り鐘形状の頭部と略同径とし、肩部の下端は、瓶体の最も太い胴部より細くその部位は全体の上から約3分の1の部位とし、全体の高さに対する太さの割合は、最も太径のところの約3・58倍の高さとし、透明の胴部内に瓶口の径より太径の球を封入したラムネ瓶」の態様である。

(3)  したがって、両意匠の共通点は、「細長円筒形状の略中央を細く絞り、この絞り部の上から上方を上端の瓶口に向けて細径とした瓶体であって、上端を略釣り鐘形状の頭部とし、その頭部下端から略円錐台形状の肩部に連続してその下端から略中央の絞り部へ向けて絞り、次に絞り部から下方へ向けて傾斜面を経て太径の略円筒形状の胴部とし、瓶体の最も細径のところは中央の絞り部で、釣り鐘形状頭部と略同径とし、肩部の下端は、瓶体の最も太い胴部より細く、その部位は全体の上から約3分の1の部位とし、頭部を除く全体を透明とし、全体の高さに対する太さの割合は最も太径のところの約3倍の高さとした点」とみるべきであるから、「絞り部の上」、すなわち「肩部下端」から「上端の瓶口」に至る形態を「徐々に細径」とした点、「頭部から肩部」に至る形態を「少し細いごく短い首を介して」とした点、「肩部下端から絞り部」に至る形態を「徐々に絞り」とした点、「絞り部から胴部に至る傾斜面」の形態を「徐々に太径とし」た点、「胴部」の形態を「胴部は下端寄りで裾すぼまりとなる」とした点をそれぞれ共通点とした審決の認定は誤っている。

(4)  次に相違点についてみると、両意匠の相違点は、本願意匠が「略円錐台形状の肩部の周側傾斜面の上端をなだらかに傾斜する凸弧面状」としたのに対し、引用意匠は「その上端を凸弧面状」としていない点(相違点1)、本願意匠が「肩部から絞り部にかけてなだらかな傾斜面としかつ該絞り部から円筒形状の胴部へかけて凸弧面状として胴部へなだらかに連続する傾斜面とした」のに対し、引用意匠は「肩部から絞り部さらには該絞り部から胴部へ連続する面をなだらかな面としていない」点(相違点2)、本願意匠は「円筒形状胴部の裾すぼまりの下端寄り約10分の1寄りで裾すぼまり状としている」のに対し、引用意匠は「下端部を曲面状としている」点(相違点3)、本願意匠は「胴部から少し細い直立した首を介してキャップ受部に対して不透明なキャップ部をねじ着した略釣り鐘形状の頭部である」のに対し、引用意匠は「胴部からそのまま上部を若干すぼめた透明な全体として一体化した略釣り鐘形状の頭部である」点(相違点4)の各点において相違する。

(5)  以上の相違点1ないし4をも考慮に入れて両意匠を対比すると、その類否の判断は以下のようになる。

まず、相違点1は、同2と相まって、この種のラムネ瓶にとって全体に照らして大きな比率を占めるものであり、本願意匠は「略円錐台形状の肩部の周側傾斜面の上端をなだらかに傾斜する凸弧面状とし」、「肩部から絞り部にかけてなだらかな傾斜面としかつ該絞り部から円筒形状の胴部へかけて凸弧面状として胴部へなだらかに連続する傾斜面とした」形態により、瓶体全体、特に瓶体のほぼ上半分の形態を、ほぼ下半分の胴部と調和した柔らかなタッチの外郭形状となすものである。これに対し、引用意匠は、深い絞り部及びこれと上下に連続する直線的な鋭角の傾斜面により瓶体全体、特に瓶体のほぼ上半分の形態を、ほぼ下半分の胴部とは異質の鋭いタッチの外郭形状(細さが強調される)とするものであるから、両者には顕著な差異があるというべきである。しかも、この差異は、瓶体全体を左右するものであり、看者に対して、両意匠を別意匠として識別できる印象、美感を与えるものである。

相違点2については、本願意匠が「肩部から絞り部にかけてなだらかな傾斜面としかつ該絞り部から円筒形状の胴部へかけて凸弧面状として胴部へなだらかに連続する傾斜面とした」のに対し、引用意匠は「肩部から絞り部さらには該絞り部から胴部へ連続する面をなだらかな面としていない、換言すれば、鋭い角としている」という明確な相違があり、この相違は相違点1と相まって、両意匠を別意匠として識別できる印象、美感を看者に与えるものである。

さらに相違点3、4は、引用意匠と対比すると、「円筒形状胴部の裾すぼまりの下端寄り約10分の1より裾すぼまり状としている」の形態により、瓶体のほぼ下半分の胴部の形態を、前述したほぼ上半分の「柔らかなタッチの外郭形状」と調和した「柔らかなタッチの外郭形状」を形作るとともに、「胴部から少し細い直立した首を介してキャップ受部に対して不透明なキャップ部をねじ着した略釣り鐘形状の頭部」である形態により、瓶体全体を一連の太い瓶体として形作るものであり、「下端部を曲面状とし」、「胴部からそのまま上部を若干すぼめた略釣り鐘形状の頭部」である引用意匠とは、瓶体全体が与える印象を異にするものである。

(6)  以上のように、本願意匠は相違点1ないし4によって、看者に対して、引用意匠とは明らかに異なる印象、美感を与えるものであるのに、審決は以上の各相違点を看過ないしは本願の出願前から普通に知られている構成であるとして無視した結果、両意匠の類否の判断を誤ったものであるから、違法であり、取消しを免れない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因に対する認否

請求の原因1、2は認める。同3のうち、(2)、(3)(但し、共通点は原告主張の点に限られるものではない。)は認めるが、その余の両意匠が非類似であるとする主張は争う。

2  反論

(1)  原告は、本願意匠と引用意匠は、本願意匠が「ラムネ瓶」である点において、意匠の具体的な物品を異にすると主張するが、失当である。すなわち、本願意匠に係る瓶が原告主張のようにラムネを入れる容器であるとしても、その意匠に係る物品は商品の販売に際し、保護及び運搬の目的で商品を包装する包装用瓶であるから、審決が本願意匠に係る物品を「包装用瓶」と認定したことに誤りはない。

(2)  審決の共通点の認定に誤りはない。審決が両意匠の共通点としたもののうち、まず、「絞り部の上」、すなわち、「肩部下端」から「上端の瓶口」に至る形態を「徐々に細径」とした点をみると、両意匠は、肩部下端から瓶体の上方向に向けて徐々に細径となし、瓶体全体として見たとき大勢として上すぼまり状となる瓶体である。そして、両意匠は、肩部下端から上方が上端の瓶口に向けて「徐々に」すなわち「少しずつ、段々に」細径となるものであるから、審決の前記認定に誤りはない。次に、「頭部から肩部に至る形態」を「少し細いごく短い首を介して」とした点についてみると、審決は、略釣り鐘形状の頭部と略円錐台形状の肩部との間で頭部の直下の、頭部に比べて細く短い部位の通常首部と認識される部分を「首」と認定したものであり、両意匠に認められるものであるから、審決の前記認定に誤りはない。また、「肩部下端から絞り部に至る形態」を「徐々に絞り」とした点についてみると、両意匠は、共に、肩部下端から略中央の絞り部へ向けて急激に絞ったものではなく、少しずつ絞ったものであるから、審決の前記認定に誤りはない。さらに、「絞り部から胴部に至る傾斜面の形態」を「徐々に太径とし」た点についてみると、両意匠は、共に、絞り部から胴部に向けてその径を少しずつ段々に太くすることによって出来上がっている平滑な傾斜面であるから、審決の前記認定に誤りはない。最後に、「胴部の形態」を「胴部は下端寄りで裾すぼまりとなる」とした点についてみると、両意匠は、共に、瓶体の底の直径は胴部の直径より小さく、本願意匠は下端寄りの部位から徐々に径を細くして底に至るものとして、引用意匠は、ごく下端寄りの部位から徐々に径を細くして底に至るものとしているのであるから、細くしている下端寄りの部位に若干の差異はあるものの、いずれも下方が細くなる略円筒形状であるから、審決の前記認定に誤りはない。

(3)  審決の差異点の認定に誤りはない。まず、相違点1をみると、審決は本願意匠の「肩部の周側傾斜面の上端」を「凸弧面状」としているのであり、この認定はとりもなおさず本願意匠の前記傾斜面はその上端がわずかな凸弧面状の面であることを示したものであるから、審決の認定に誤りはなく、差異点1の認定に誤りはない。次に、相違点2についてみるに、まず、「肩部から絞り部に至る形態」については、審決は、両意匠の共通点として「肩部に連続しその下端から略中央の絞り部へ向けて徐々に絞り」と認定しているところであり、この認定は、両意匠共、肩部下端から絞り部にかけて少しずつその径が細くなることにより出来上がっている傾斜面としたものであるから、この認定に誤りはなく、共通点とした審決の判断に誤りはない。また、相違点3についてみるに、引用意匠は、下端部を円筒形状の胴部から径の小さい底面に向けて徐々に径を細くしているものであるから、これを裾すぼまり状と認定したことに誤りはない。さらに、相違点4についてみるに、引用意匠においても、略釣り鐘形状の頭部と略円錐台形状の肩部との間には、頭部と肩部を連結する少し細く短い直立した部位、すなわち首部が存在している。次に本願意匠の頭部においては、キャップ部がキャップ受部に「ねじ着」されているが、この点は頭部形成の過程と形成手段のことにすぎず、瓶体としての略釣り鐘形状の頭部はわずかな下端部を除き不透明となっいるのであるから、「頭部を嵌着して不透明なものとした」審決の認定に誤りはない。

したがって、審決の差異点の認定に誤りはなく、原告の相違点に関する主張はいずれも失当である。

(4)  審決の類否の判断に誤りはない。すなわち、両意匠の構成は、審決認定のとおり、瓶体の上から下に向けて順に、略釣り鐘形状の頭部、細径の首部、下端が太径の肩部、細径の絞り部、太径の胴部の各部から成り、両意匠は、細径部分と太径部分を交互に有し、その繰り返しのリズムは軌を一にするものである。また、両意匠の頭部と絞り部の太さは共にそれぞれ略等しく、絞り部と胴部と肩部下端との太さの関係は、絞り部を最も細く、胴部を最も太く、肩部下端を胴部の太さに比べてやや細くしたもので両意匠においてそれぞれ共通する。さらに、頭部、細径の首部、太径の肩部下端、細径の絞り部、太径の胴部は両意匠共、略等しい上下の位置関係にある。そして、前述の両意匠の軌を一にするリズムと各部の太さと細さの関係及び上下の位置関係によって生ずるリズムの相まったところは一つの基調を形成し、この構成からなる形態上の基調に両意匠に共通する特徴が存するものであり、この基調に存する特徴は両意匠の類否判断を支配するものである。

一方、両意匠の差異点は、前記の両意匠の共通する基調に埋没する程度の微弱なものであり、両意匠は類似するものであるから、原告の主張は失当である。

(5)  両意匠は非類似であるとする原告主張はいずれも失当であり、審決の類否判断に誤りはない。すなわち、意匠の類否判断は、客観的に判断されるべきであり、一般に当該意匠の分野における先行意匠を考慮し、この種の意匠水準に照らし、両意匠の基本的な構成形態及び具体的な形態について認定し、意匠について格別特徴づける具体的形態が有るか否かを判断し、しかも、それらを総合して見たとき意匠全体から醸成される形態上の基調如何について考察し判断されるものである。そして、本願意匠と引用意匠は一体として形成されている一定のまとまりをなす瓶体に係るものであり、このような両意匠について瓶体の上半分を取り出し、類否を論ずるのは無意味である。

<1> 原告主張の相違点1、2の点についてみる。まず、肩部の形態については、この種の意匠において、その肩に相当する部位の上端を凸弧面状とすること(乙第2ないし7号証の3)、また、その凸弧面状の形態を種々の曲率の凸面弧面状に変更すること(同第8、9号証)は、いずれも本願の出願前より普通に知られている。さらに、肩部を凹弧面状に変更すること及び凸弧面状でも凹弧面状でもない傾斜面に変更することも本願意匠の出願前から普通に知られているところである(乙第10ないし15号証)。そして、本願意匠の肩部の形態も普通に知られている曲率の範囲内の形態を選択したまでのことにすぎず、新規な特徴があるものとはいえないから、肩部の形態の差異が意匠全体に与える影響は小さく、両意匠の類否判断に影響を与えるものではない。

次に、絞り部から胴部に至る傾斜面については、両意匠共「絞り部から徐々に太径にして胴部に至る傾斜面とした」点において差異はなく、この種の意匠において、傾斜面を引用意匠のように側面からみてやや角張った連続面とすることも、また、本願意匠のようになだらかな連続面とすることも、いずれもその形態に応じて適宜選択される程度のもので、本願意匠の前記形態を独自の意匠とすることはできないし、前記の共通する傾斜面の形態を越えて新規な傾斜面の形態を構成する程の特徴とはいえない。

以上のように、前記肩部及び絞り部から胴部にかけての形態の差異が類否判断に与える影響は小さく、これらの形態が相まったとしても、両意匠の肩部下端から絞り部に向けて徐々に絞った面の共通していることを勘案すれば、前記の差異は格別顕著な差異とは認識されず、両意匠の共通する形態に埋没する程度の差異でしかない。

<2> 原告は、相違点1、2により、本願意匠は、瓶体全体を柔らかなタッチの外郭形状とするのに対し、引用意匠は、鋭いタッチの外郭形状(細さが強調される)とするものであるから、両者には顕著な差異があるとする。

しかし、前述したように、原告が柔らかなタッチの外郭形状とする肩部並びに肩部下端から絞り部へ向けて徐々に絞った面及び絞り部から胴部へかけての面の形態は、いずれも新規な特徴ある形態ないし本願意匠の独自の形態とすることはできず、両意匠の共通する肩部下端から絞り部及び細径の絞り部から太径の胴部へ連続する傾斜面の形態を超えて新規な傾斜面の形態を構成するほどの特徴ではないから、この点の差異が意匠全体に与える影響は小さい。そして、原告主張の両意匠の外郭形状の差異は、この種意匠のごく普通の可変性の範囲に止まり、新規性がないから、両意匠の共通する形態に埋没する程度の差異でしかなく、原告の主張は失当である。

<3> 原告は、相違点3、4が相まって、瓶体全体を太い瓶体として形作るものであり、引用意匠とは印象・美感を異にすると主張する。しかし、相違点3の胴部を裾すぼまりとする意匠は本願意匠の出願前から普通に知られており(乙第16、17号証)、新規性がなく、また、この面は胴部の下端寄りの部位から下端に向けて細径となるごくわずかに後退する面にすぎず、突出した面に比べて目立つものではないから、この点は微弱な差異にすぎない。また、頭部に関する相違点4は、本願意匠の頭部は不透明であるから、嵌着した点の構造上の差異は意匠上の差異として顕著に現れない。また、不透明とした点は形態の本質を変えるものではなく、従来から普通にみられるところであり(乙第18号証の1、2)、本願意匠の特徴とすることのできない部分的な差異にすぎない。したがって、いずれも釣り鐘形状の頭部の形態に埋没する程度の微弱な差異にすぎない。

<4> 以上のとおり、両意匠の差異点は、両意匠の共通する形態の一部について、意匠を改変する常套手段としての手法を用いて、わずかに凸弧面状とし(相違点1)、なだらかに連続する面とし(同2)、わずかに裾すぼまりとし(同3)、一部を不透明とし(同4)たものであって、引用意匠の一部をごくわずかに改変した結果にすぎないから、いずれの形態も特徴がなく、これらの点を総合しても両意匠を別異のものとする特徴を表出するものではない。

第4  証拠

証拠関係は、書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1、2は当事者間に争いがない。

2  原告は、本願意匠に係る物品は「ラムネ瓶」である点において引用意匠に係る物品である「包装用瓶」とは物品を異にするとし、審決が両意匠に係る物品は一致するとした点を非難するので、まず、この点から検討する。

引用意匠に係る物品が「包装用瓶」であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第2号証(本願意匠に係る意匠登録願)によれば、本願に係る意匠登録願添付の図面中の正面図中央縦断面図と題する図面には、本願意匠に係る包装用容器の瓶体の中にほぼ瓶口を塞ぐに足る程度の大きさの球体が内蔵されている事実が認められ、この事実からすると、本願意匠に係る物品は、原告主張のようにラムネ用の容器であることも推測されるところ、このラムネ用容器を内部に商品を包装するための瓶、すなわち、「包装用瓶」の一種であると認めることに何ら支障はない。そうすると、本願発明に係る物品と引用意匠の物品が一致するとした審決の判断に誤りはないから、この点に関する原告の主張は採用できない。

3  次に、両意匠の類否について検討するに、本願意匠及び引用意匠の各構成が別紙意匠目録(1)、(2)に記載のとおりであること並びに両意匠が「細長円筒形状の略中央を細く絞り、この絞り部の上から上方を上端の瓶口に向けて細径とした瓶体であって、上端を略釣り鐘形状の頭部とし、その頭部下端から略円錐台形状の肩部に連続してその下端から略中央の絞り部へ向けて絞り、次に絞り部から下方へ向けて傾斜面を経て太径の略円筒形状の胴部とし、瓶体の最も細径のところは中央の絞り部で、釣り鐘形状頭部と略同径とし、肩部の下端は、瓶体の最も太い胴部より細く、その部位は全体の上から約3分の1の部位とし、頭部を除く全体を透明とし、全体の高さに対する太さの割合は最も太径のところの約3倍の高さとした点」において共通することはいずれも当事者間に争いがない。

(1)  原告は、審決の上記当事者間に争いのない点を除く審決の共通点の認定部分を誤りであると主張するので、まず、この点から検討する。

a  「絞り部の上」すなわち「肩部下端」から「上端の瓶口」に至る形態を「徐々に細径」とした点を共通点としたことの当否について

両意匠が、「絞り部の上から上方を上端の瓶口に向けて細径とした瓶体である」点は当事者間に争いがなく、審決のこの点に関する認定判断が、両意匠共、全体として、肩部下端から上方へ向けての形態が上すぼまり状であることを示したものであることは前記争いない審決の理由の要点から明らかである。そして、前掲甲第2号証によれば、本願意匠の肩部下端から頭部に至る部分についての前記「細径」の形態は、肩部下端を最も広くし、肩部下方の約3分の2を直線状に、その余の約3分の1を曲線状に絞って、略釣り鐘形状とし、首部下端に至り、垂直な首部(その長さは肩部下端から頭部上端に至る長さの約16分の1程度であり、全長の約46分の1程度である。)の上端から、底部を首部より若干広幅とし、上部を首部より狭くした略釣り鐘形状の頭部に至るものであることが認められる。すなわち、肩部、首部及び頭部の形態は、肩部を頭部より大きな釣り鐘形状とし、続いて僅かな長さの垂直な首部を介して、その上方に肩部より一回り小さな釣り鐘形状を重ねた形態であるから、下方の大きな釣り鐘形状の上に、僅かな垂直部分を介して、一回り小さな類似した釣り鐘形状を繰り返したことにより、全体として下方から上方に向かって次第に細くなる形態、すなわち、「徐々に細径」とした形態であるということができる。

一方、成立に争いのない甲第3号証によって引用意匠の形態についてみると、引用意匠における肩部下端から頭部上端に至る形態は、肩部下端を最も広くし、肩部から上方に向けて最も絞りきった部位を首部とし、この首部に殆ど接着して(したがって、垂直な部位と評価し得る程の部分はない。)、その上方に底部を首部より若干広幅とし、上部を首部より狭くした略釣り鐘形状の頭部を配したものであることが認められる。すなわち、肩部、首部及び頭部の形態は、肩部である下方を略八の字形状とし、続いて最も絞り切った首部を介して、その上方に底部を首部より若干広幅とし、上部を首部より狭くした略釣り鐘形状の頭部を重ねた形態であるから、下方の略八の字形状の上に、絞り部を介して、釣り鐘形状を配したことにより、全体として下方から上方にかけて、次第に細くなる形態、すなわち、「徐々に細径」とした形態であるということができる。

以上の認定判断によれば、両意匠は共に、「絞り部の上」すなわち「肩部下端」から「上端の瓶口」に至る形態を「徐々に細径」とした点において共通するものであることは明らかであるから、この点を共通点とする審決の認定判断に誤りはない。

b  「頭部から肩部」に至る形態につき「少し細いごく短い首を介し(た)」点を共通点としたことの当否について

本願意匠の「頭部から肩部」に至る形態は前項に認定説示したとおりであり、本願意匠が垂直な首部を有し、その長さは、前掲甲第2号証によれば、全長の約46分の1程度であるから、これを「少し細いごく短い首」と認定判断したことに誤りはない。

一方、引用意匠についてみると、その「頭部から肩部」に至る形態は前項に認定説示したとおりであり、引用意匠においては、本願意匠に認められるような首部の垂直部分は認められない。しかしながら、引用意匠においてもキャップ部である頭部と瓶体本体の一部である肩部との間にある最も絞り切った部位は、上方に向かって直ちにまたわずかに広がる点において肩部と区別して評価することが可能であり、その意味において、この最も絞り切った部位を肩部と頭部の間にある部位として「首部」と評価することは誤りではないというべきである。そして、引用意匠の首部が文字通り「少し細いごく短い首」であることは前記認定から明らかであるから、この点を両意匠の共通点とした審決の認定判断に誤りはない。

c  「肩部下端から絞り部」に至る形態を「徐々に絞(る)」点を共通点としたことの当否について

両意匠が「肩部下端から絞り部」にかけて、「絞った」態様であることは当事者間に争いがなく、前掲各甲号証により、上記の部位を両意匠についてみると、両意匠共、肩部下端から瓶体の最も細径の部位である絞り部(絞り部が瓶体のうち最も細径である点は当事者間に争いがない。)に向けて直線状に次第に細く形成していることが認められるのである。そして、「絞る」とは、締めつけるの意であるから、前記の直線状に次第に細く形成した態様が、「徐々に絞(る)」ことに該当することは明らかであり、したがって、この点を共通点とする審決の認定判断に誤りはない。

d  「絞り部から胴部に至る傾斜面」の形態を「徐々に太径とし」た点を共通点としたことの当否について

前掲甲第2号証によれば、本願意匠の「絞り部から胴部に至る傾斜面」の形態は、最も細い絞り部、すなわち胴部上端から下方に向かい胴部長の約5分の1のところまでをなだらかな曲線状に形成し、最も太径の胴部(この点は当事者間に争いがない。)に連続していることが認められる。これに対して、前掲甲第3号証によって引用意匠の対応する「傾斜面」の形態をみると、最も細い絞り部、すなわち胴部上端から下方に向かい胴部長の約7分の1のところまでを直線状に形成し、最も太径の胴部(この点は当事者間に争いがない。)に連続していることが認められる。

以上によれば、両意匠共、「絞り部から胴部に至る傾斜面の形態」を「徐々に太径とし」たことは明らかであるから、この点を共通点とした審決の認定判断に誤りはない。

e  「胴部」の形態を「胴部は下端寄りで裾すぼまりとなる」とした点を共通点としたことの当否について

前掲甲第2号証によれば、本願意匠の「胴部の下端寄りの部位」の態様は、底部から上方に向けて胴部長の約5分の1(全長の約8分の1)の最も太径の胴部部分から下方に向けて直線状の傾斜面として徐々に細く形成し、底部近くで丸めて底部に至ることが認められる。これに対して、前掲甲第3号証によって引用意匠の対応する部位の態様をみるに、底部から上方に向けて胴部長の約12分の1(全長の約23分の1)の最も太径の胴部部分から下方に向けてごく短い傾斜面を経て底部近くで丸めて底部に至ることが認められる。

以上によれば、両意匠共、胴部は下端、すなわち底部寄りで、底部に行くに従い細く形成する態様、すなわち、裾すぼまりの態様に形成されていることは明らかであるから、この点を共通点とした審決の認定判断に誤りはない。

(2)  原告は、審決の当事者間に争いのない前記差異点以外にも、本願意匠と引用意匠との間には相違点1ないし4があると主張するので、以下、この点について判断する。

a  相違点1について

原告は、本願意匠が「略円錐台形状の肩部の周側傾斜面の上端をなだらかに傾斜する凸弧面状」としたのに対し引用意匠は「その上端を凸弧面状」としていない点を相違点1として主張するので、この点をみるに、この部分の両意匠の態様は、前記(1)aに認定のように、本願意匠においては、肩部下端を最も広くし、肩部下方の約3分の2を直線状に、その余の約3分の1を曲線状に絞って、略釣り鐘形状としているのに対し、引用意匠においては、肩部下端を最も広くし、肩部から首部にかけて直線状に絞っているのであるから、この両態様からみると、両意匠には、原告主張の相違点1が存在するものということができる。

ところで、審決は、両意匠の肩部の周側傾斜面の態様について、本願意匠は、周側傾斜面の上端を凸弧面状としたのに対し、引用意匠は、その上端を凸弧面状としていない点を差異点1として指摘していることは当事者間に争いがなく、この差異点において指摘する本願意匠における周側傾斜面の上端を凸弧面状とする態様が前記認定の本願意匠の態様のうち首部に至る肩部上方の約3分の1の曲線状部分に相当することは明らかであるし、また引用意匠の上端を凸弧面状としていないとする態様が前記認定の引用意匠の態様のうち首部に至る肩部上方付近の部分に相当することは明らかであるから、原告指摘の相違点1は、表現こそ違え、正に審決摘示の差異点1と異ならないものであり、したがって、審決にこの点に関する相違点の看過はない。

b  相違点2について

原告が相違点2として主張するところと、審決が差異点2と摘示するところの違いは、原告が「肩部から絞り部にかけて、本願意匠はなだらかな傾斜面であるが、引用意匠ではなだらかな傾斜面としていない」と主張するのに対し、審決が肩部から絞り部にかけての形状の差異について摘示していない点にある。しかし、前記(1)cに認定のように、両意匠共、肩部下端から瓶体の最も細径の部位である絞り部に向けて直線状に次第に細く形成しているのであるから、両意匠はこの点において共通するのであり、審決はこれを共通点としているところであって、この認定判断が正当であることは前記(1)cに認定したとおりであるから、審決にこの点に関する相違点の看過はない。

c  相違点3について

原告は、本願意匠は「円筒形状胴部の裾すぼまりの下端寄り約10分の1寄りで裾すぼまり状としている」のに対し、引用意匠は「下端部を曲面状としている」点を相違点3として主張するので、この点をみるに、前記(1)eに認定したところによれば、本願意匠は、底部から上方に向けて胴部長の約5分の1(全長の約8分の1)(したがって、原告が主張する「下端寄り約10分の1」とする数値は正確とはいい難い。)の最も太径の胴部部分から下方に向けて直線状の傾斜面として徐々に細く形成し、底部近くで丸めて底部に至るのに対して、引用意匠は、底部から上方に向けて胴部長の約12分の1(全長の約23分の1)の最も太径の胴部部分から下方に向けて曲線状の傾斜面とし、徐々に細く形成して底部に至る態様であるから、審決が、この部分の態様を、両意匠共、胴部は下端寄りで裾すぼまりであると認定判断したことが正当であることは既に前記(1)eに説示したとおりである。そして、審決が、本願意匠は引用意匠に比べてやや上方から裾すぼまり状としている点を差異点3とすることは当事者間に争いがないから、審決にこの点に関する相違点の看過はない(審決は、特に下端部について「曲面状」とした表現は用いていないが、同部分を「裾すぼまり状」としているところからみて、当然、曲面状であることを前提として、認定判断したものと認めることができる。)。

d  相違点4について

原告は、本願意匠は「胴部から少し細い直立した首を介してキャップ受部に対して不透明なキャップ部をねじ着した略釣り鐘形状の頭部である」のに対し、引用意匠は「胴部からそのまま上部を若干すぼめた透明な全体として一体化した略釣り鐘形状の頭部である」点を相違点4として主張するので検討するに、首部及び頭部の態様は、本願意匠においては、全長の約46分の1程度の垂直な首部とその上端から底部を首部より若干広幅とし、上部を首部より狭くした略釣り鐘形状の頭部からなるのに対し、引用意匠においては、肩部から上方に向けて最も絞りきった部位を首部とし、この首部に殆ど接着して、その上方に底部を首部より若干広幅とし、上部を首部より狭くした略釣り鐘形状の頭部からなるものであることは、前記(1)aに認定のとおりである。したがって、本願意匠の首部に前記のとおりの垂直な部分があるのに対して、引用意匠は殆ど垂直な部分がないのであるから、この点は両意匠の相違点ということができる。次に、前掲甲第2号証によれば、本願意匠はキャップ部をキャップ受部にねじ着したものであることが認められるところ、前掲甲第3号証によれば、引用意匠においては、キャップ部をキャップ受部に嵌着したものであることが認められる。しかしながら、本願発明におけるキャップ部は不透明であるから前記取付態様は外観に現れず、この意味において、両意匠の対比において、前記各取付態様の違いは外観上の相違としてさほど現れず、したがって、もし、本願意匠の前記ねじ着した点を両意匠の相違点として主張する趣旨であるならば、原告の主張は失当といわざるをえない。そして、キャップ部が透明であるか否かの相違を審決が差異点4とすることについては前記のおおり当事者間に争いがない。

してみると、相違点4に関する主張は、前記の首部の態様に関する限度で相当というべきである。

(3)  そこで、以上認定の両意匠の共通点及び相違点を踏まえて審決の類否の判断の当否を以下検討する。

a  両意匠に係る物品は「包装用容器」(具体的には「包装用瓶」)であり、前記認定の両意匠の形態からすると、これらの容器は、ジュース、ラムネ等の液体飲料等を収容し、一般需要者が直接これらの容器を手に取り、飲用したり、持ち運ぶなど、ごく日常的に取り扱われるものであることが推認される。そうすると、これらの容器の前記のような用途及び使用の態様等からすると、容器の個々具体的な態様が従来から用いられているそれと明確に異なった格別斬新な意匠態様でない限り、一般には、容器全体の基本的形態が最も看者の注目を引きつける要部とみるべきであり、個々の具体的な態様は、顕著な意匠的特徴を有しない限り、要部がもたらす美感に吸収されてしまうものということができる。

b  そこで、以上のような観点から、両意匠について検討するに、前記の両意匠に共通する形態、すなわち、細長円筒形状の略中央を細く絞り、絞り部の上から上方を上端の瓶口に向けて、徐々に細径とした瓶体であって、上端は略釣り鐘形状の頭部とし、少し細いごく短い首を介して略円錐台形状の肩部に連続し、その下端から略中央の絞り部へ向けて徐々に絞り、次に下方の胴部へ向けて傾斜面で徐々に太径とし、略円筒形状の胴部は下端寄りで裾すぼまり状となるものとし、瓶体の最も細径のところは中央の絞り部で釣り鐘形状頭部と略同径とし、肩部の下端は、瓶体の最も太い胴部より細くその部位は全体の上から約3分の1の部位とし、頭部を除く全体を透明とし、全体の高さに対する太さの割合は最も太径のところの約3倍の高さとした形態は、看者に、先ず、両意匠が、頭部、首部から肩部を経て絞り部にかけての中間部、及び胴部の3つの主要な部分から構成されていることを印象づけ、また、瓶体の上方から下方に向けて順に、略釣り鐘形状の頭部、頭部より細径の首部、下端が首部より太径の肩部、肩部下端より細径の絞り部、最も太径の胴部と、太径部分と細径部分とが交互に繰り返す構成が一種のリズム感を付与し、さらに、前記のリズム感と頭部、肩部下端、及び胴部の縦横における大きさの違いとが相まって、上方に向かって次第に細く形成されている形態は、瓶体が上方に向かって伸びていく感じを与え、逆に、下方に向かって次第に太くなる形態は、瓶体に安定感を付与する効果をもたらすものであって、かかる両意匠の基本的形態がもたらす美感は、両意匠の基調を成す美感ということができる。

してみると、両意匠は、要部、すなわち基本的形態がもたらすところの基調を成す美感において共通するものというべきである。

c  そこで進んで、両意匠の差異点1ないし4及び原告が主張する両意匠の首部の相違点について検討する。

まず、周側傾斜面の態様に関する差異点1についてみると、いずれも成立に争いのない乙第2ないし6号証及び同第7号証の1ないし3によれば、本願意匠に係る物品である包装用瓶に属する各種の瓶体において、その肩部を様々な曲率の凸弧面状に構成する態様のものが本願出願前に数多く存在することが認められ、また、いずれも成立に争いのない乙第8ないし15号証によれば、肩部の曲率を変更したり、これを凹弧面状あるいは平面状に適宜変更している包装用容器が認められるところであるから、これらの事実によれば、瓶体の意匠において肩部の傾斜面の態様を、適宜、前記のような態様に変更する手法は、既に慣用化された手法と評することができ、本願意匠の肩部のなだらかな凸弧面状の態様も、このような慣用化された手法を採用したものと評することが可能であり、この点に、新規な意匠的工夫があるものということは到底できない。そうすると、差異点1は前記の本願意匠が奏する基調となる美感に吸収される程度のものといわざるをえない。そして、絞り部から円筒形状の胴部にかけての傾斜面の態様に関する差異点2も、差異点1と類似した意匠的部分であるから、差異点1について述べたところがそのまま妥当するものであって、差異点2も前記の本願意匠が奏する基調となる美感に吸収される程度のものといわざるをえない。

次に、胴部を裾すぼまり状とする態様に関する差異点3についてみると、元来この部分は、瓶体の最下端部である上、絞り部より上方の部分に比べて意匠的変化に乏しく、目立ちにくい部分である。そして、いずれも成立に争いのない乙第16、17号証によれば、包装用瓶体において胴部の下端寄りを裾すぼまり状とする態様は既に本願出願前に存在する意匠的態様であることが認められるから、この点をも加味すると、差異点3は、目立たない部分に既にみられる手法を用いて形成された態様による差異として、前記の本願意匠の奏する基調となる美感に吸収される程度のものといわざるをえない。

さらに、頭部が透明か否かに関する差異点4についてみると、頭部を透明にするか、それとも不透明にするかは、形態それ自体を変えるものではないから、それ自体形態がもたらす美感をさほど大きく変えるものではない。そして、成立に争いのない乙第18号証の1、2によれば、内容物が外部から明らかに分かるように頭部以外の部分を透明にした包装用容器が本願出願前に既に存在したことが認められることからすると、かかる手法も本願意匠独自のものとすることはできず、差異点4は、前記の本願意匠の奏する基調となる美感に吸収される程度のものといわざるをえない。

最後に、首部の相違点についてみると、垂直な部分を有する本願意匠の首部に対して、引用意匠においては首部に垂直な部分がないからこの点を相違点として捉えるべきものであることは既に述べたとおりであるが、本願意匠における首部は、既に認定のように、全長の約46分の1程度にすぎないことを考慮すると、この点の差異が本願意匠の前記の基調となる美感を左右するものと解することは到底困難というべきである。

d  原告は、前記の各差異点及び相違点が相まって、本願意匠においては、柔らかなタッチの外郭形状となすのに対し、引用意匠は、鋭いタッチの外郭形状をなす結果、両意匠が与える印象、美感は異なると主張する。

確かに、本願意匠の前記の凸弧面状をなした肩部傾斜面や胴部傾斜面等の態様は、本願意匠にふっくらとした柔らかい感じを付与するのに対し、かかる態様を欠く引用意匠は、本願意匠に比べて鋭いタッチの外郭形状をなすものであることは原告主張のとおりである。しかしながら、このような印象、美感上の差異は、前記のような両意匠が奏する基調となる美感、すなわち、3つの主要な部分から構成され、太径部分と細径部分とが交互に繰り返して一種のリズム感を付与し、さらに、前記のリズム感と頭部、肩部下端、及び胴部の縦横における大きさの違いとが相まって、瓶体が上方に向かって伸びていく感じと下方に向かって瓶体に安定感を付与する効果をもたらすという基本的な美感の共通性に比べると、両者を並べて対比観察したときに始めて指摘できる程度の微細な差異であって、かかる差異があるからといって、両意匠の類否を異にする程の美感上の差異があるということは到底困難である。

e  以上の次第であるから、両意匠が奏する基調となる美感は一致するものというべきであって、両意匠が類似するとした審決の判断に原告主張の誤りはなく、また、本願意匠が意匠法9条1項の最先の出願人に係る意匠に該当しないことは当事者間に争いがないから、審決に違法はないというべきである。

4  よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濱崎浩一 裁判官 田中信義)

別紙意匠目録(1)

<省略>

同(2)

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意匠の説明 本物品は透明体であり、背面図、右側面図、左側面図は正面図と同一にあらわれる。

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